看護や介護では患者や利用者の生活を援助するために、様々な面で介入しています。
中でも麻痺や拘縮があったり思うように体を動かせないという症状がある場合、自力での移乗が困難な場合が多いのです。
また必要なサポートや求めている援助はその人1人1人違うため、サポートする側はその判断がとても難しく感じます。
ではそもそも移乗とは何なのでしょうか。
移動との違いや移乗の方法などを説明していきます。
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目次
移乗と移動はどう違う?
移乗とは現在の位置から違う位置へ移る動作、つまり生活の中で行われる乗り移りの動作のことを指しています。
様々な動作の切り替えや移動を伴う場合に行う動作で、例えばベッドから車イスへ、車いすからトイレへなどの行為が当てはまります。
またこの移乗動作は、毎日の生活の中で頻繁に行われており、自立した人は簡単に立ったり座ったりができますが、障害のある場合はそれが出来ないためサポートが必要になるのです。
一方移動とは、その場から別の場所へ移る動作の事を指します。
つまり通常であれば歩行動作で行う動作の事です。
歩行が不安定など場合によっては杖や歩行器、車いすを使って行う動作で、寝室からトイレへの移動、家から公園への移動などの状況が当てはまります。
移乗は移動の前に行われる動作であり、移乗動作が出来なければ移動動作を行う事はできません。
移乗にはボディメカニクスが必要
介護で使われるボディメカニクスとは身体力学、つまり身体の自然な動きのメカニズムを活用した介護技術のことを指します。
このボディメカニクスを活用することで、相手にとっても自分にとっても安楽な移乗をサポートすることができます。
ボディメカニクスにはいくつかのポイントがあります。
相手の体を出来るだけ小さくして、自分との距離を近づける
相手の腕を胸の前で組み両膝を曲げるなど、体全体を出来るだけ小さくまとめて自分と接する面積を小さくします。
そうすることで自分の加える力が相手の体の中心に集中し動かしやすくなります。
また自分と相手の重心の位置を近づけることで、移動したい一方向に大きな力を入れられるので少しの力で簡単に移乗することができるのです。
支持基底面を広く、重心を落とす
足を前後、左右に開いて体の基底面を広くとることで、立ち上がった時にふらつかず安定性が出ます。
また膝を曲げ腰を落とした重心の低い状態をとることで、姿勢が安定し腰への負担も最小限にすることができます。
水平に移乗させる
身体を持ち上げようとするのではなく、横に滑らせるように水平移動を意識すると、最小限の力で移乗することができます。
また体の一部を使うのではなく足や腰などの大きな筋肉を均等に使うことで、小さな力で大きな力を発揮することができるのです。
このように、移乗には自分にも相手にも負担が最小限になるような体の使い方が重要となります。
実際の移乗
では実際に移乗を介助する際のポイントを説明します。移乗の介助には立ち上がり、方向転換、着座の3つの動作が含まれます。
立ち上がり
介助の際には相手の脇の下や腰を支える位置に手を添えて、自分と相手との重心位置を近づけます。
立ち上がる際には、相手の頭を下げてお辞儀をするような形をとると、重心が前方にかかりやすくなりお尻が上がりやすくなります。
方向転換
方向転換は片足を軸にして、滑らすように足を動かしていきます。
可能な場合は無理のない程度に愛踏みをしてもらい、少しづつ足を動かしてもらいます。
可能であれば立ち上がりの段階で移動したい方向にかかとを向けておくと、身体をひねらずに方向を変えることができるのです。
着座
方向転換ができたら、ゆっくりと着座します。
着座も立ち上がりの時と同じように、お辞儀をする体勢をとることで静かに安全に座ることができるのです。
そして着座した後にしっかりと深く座れているかどうかを確認します。
人によって必要な介護度や重心のかかり方などが違うので、身体を動かすタイミングで適切な声かけも必要になります。
移乗する時の注意点
移乗の介助をする際にはいくつかのリスクと注意点があります。
血圧低下による転倒
寝ている状態から急に立ち上がることで、脳の血流が一時的に少なくなり低血圧を起こすことがあります。
この起立性低血圧によって、膝折れやふらつきが起こりやすくなるのです。
介助量の軽い人にでも起こりうる事なので、常に注意が必要です。
転落に注意
移乗しやすいようにベッドや車イスに浅く座ると、シーツや座布団で滑って床にずり落ちてしまう事があります。
転落防止として、必ず手すりなどを握ってもらうなどの対策が必要です。
表皮剥離に注意
相手が高齢の場合は特に皮膚が弱くなっているため、軽くぶつかっただけでも簡単に内出血ができたり皮膚が剥がれてしまうことがあります。
移乗する際には必ず足元まで周囲を確認し、車いすのフットレストなどには十分な注意が必要です。
その他にも移乗した後の不快感がないように整えることや、無理な体勢で移乗介助することによって自分の体が悲鳴を上げてしまうこともあります。
まとめ
移乗は日常生活で頻繁に行われる動作であり、介助をするに当たっての自分への負担も大きい援助です。
自分の力だけで介助しようとすると自分への負担も大きく、相手にも負担や不安を与えることになります。
ですから、何でも頼ってもらうのではなく、相手の持っている力を最大限に生かすということも1つの方法です。
そのためには、相手の持つ力を自分が把握しておく必要があります。
何が出来て何が出来ないのかを相手に直接伝えることも、相手のモチベーションを上げたり更なるADL向上にも有効です。
自分の介助だけで移乗が困難な場合は、無理せずに複数人で行ったりその他の福祉道具を使うことも検討しましょう。